2008年09月19日

人形の家

シアターコクーンにて「人形の家」。

「人形の家」の主人公ノラは、女優なら一度は演じてみたいと思う役なんじゃなかろうか。
それまでは守られるだけだった、夫にとってかわいいかわいいヒバリちゃんだった妻。生活に不自由はない。従順な妻と母を演じていれば、永遠に甘いお城の中で守られて生きていける。
しかしある事件をきっかけに「一人の人間」として対等に見られていない自分に気づき、「本当の自分」として生きたいと願うノラを理解すらできない夫のもとを去る決意をする。いとおしい子供すら残して。
1879年に書かれた戯曲というのに、しっかり現代にも通じるテーマです。

ステージはホール中央に四角いステージを置き、周囲をすり鉢状に客席が囲むスタイル。
子供のおもちゃやプレゼント、ツリー、豪華な長椅子が置かれた、誰もが思い描く幸せな家の典型のような1幕目のセットが、2幕、3幕と進んで行くうちにどんどんそぎ落とされ、クライマックスには妻と夫が向かい合わせに座る椅子2脚のみが残される。

ノラを演じた宮沢りえの衣装もセットと同じように変化する。
パニエで膨らませ、ギャザーをたっぷりとったかわいいオレンジ系の若奥様のドレスから、家庭の危機に必死に抵抗する2幕では黒いコートと青いドレス、再終幕では仮装パーティでの体にフィットした扇情的なドレスから一転、夫との対決シーンに着た白いシャツ、グレーのタイトスカートというきりりとしたスーツ姿が、まんまノラの心情をあらわしていて、シンプルな演出ゆえにストレートに伝わってきたなあ。

席が最前列ということもあって、くるくる変わるりえちゃんの表情を観ているだけでも楽しめるお芝居だった。
宮沢りえってこんなにすばらしい女優さんだったんだねえ。1幕目の可憐な奥様と、ラストシーンの決意をたたえた女の表情を共に演じることのできる人は、そうはいないだろうなあ。最初っから最後までりえちゃんから目が離せない。3時間近くの上演時間を感じさせない力演だったよ。

個人的にはノラの友人・リンデ夫人の台詞にぐっときた。
経済的理由から家族のために愛のない結婚をし、ひたすら周囲の人間につくしてきたリンデ。
夫に先立たれ、守るべき子供もおらず、誰ももう彼女を必要としていない。
何にしばられることなく自由の身になったのだ。手に職はある。仕事さえあれば一人で生きていける。しかし彼女は叫ぶのだ。
「からっぽなの!」

人はとことん自分のためだけには生きられない。
誰かに必要とされることが生きる強さに変わる。
それは家族だったり恋人だったり友人だったり子供だったり、ひょっとしたら赤の他人だったり。

「のらりくらり自分のためだけに生きてるから今いちモチが上がらんのだねえ」
というようなことを友人にぼやいていたら
「ローン組んでマンション買うといいよ。とりあえず金返すために働かなきゃって思えるから」
と言われた。

本当の自分を見つけるのは、やっぱりギャンブルのようである。

出演/宮沢りえ 堤 真一 山崎 一 千葉哲也 神野三鈴 松浦佐知子 明星真由美
Posted by いのうえさきこ at 23:59